山田:海外売り上げを増やすために、三木谷さん自身が働く場所を変える必要はありませんか。たとえば、アメリカへ移住してしまう、とか。
三木谷:考えていますよ。11月から始めようと思うのですが、月のうち1週間ぐらいは海外に行くことを考えています。主にはアメリカのシリコンバレーの家で過ごすことを考えています。
当然、マーケットとしてはアメリカだけではなく、ヨーロッパ、アジア、南米も含めてこれからどんどん成長していく。アメリカを伸ばすだけでなく、グローバルでやっていく。ただ、やはりシリコンバレーは特別な場所です。シリコンバレーにおけるプレゼンスというのは、重要です。今でも楽天はある程度のプレゼンスがあると思いますが、もう少し高めたほうがいいかなと思っています。
山田:シリコンバレーで1週間過ごすとして、何をする予定ですか。
三木谷:分からないですね。ビデオ・カンファレンス・システムを通じて夜中はほぼ日本で働くと思うので、睡眠時間が単に減るだけじゃないかなと思っています。飲んでいるような時間が仕事に変わるだけでしょうね。
山田:これによってギアチェンジをするイメージですか。
三木谷:そうですね。一つ言えるのは、私はまだ40%以上の楽天の株式を持っていて、かなりロングタームで、この会社とコミットしているわけです。超長期で考えていくと、このドメスティック・マーケットの成長は、グロスで言うとそんなに望めないわけですよね。
そう考えるのであれば、国際展開をしていかざるを得ない。そのために社内の英語化もしましたし、いろいろな国際的な打ち手も打ってきた。もちろん日本でもいろいろなことをできますが、世界中を回ることによってはじめて見えてくるものもある。今回のEbatesも、この夏にシリコンバレーに行く、ということがなかったら、楽天グループには来なかったかもしれない。
山田:確かに、ビジョンの共有、M&Aという流れは、ビデオ・カンファレンスで自然に出てくる話ではないですね。
三木谷:オフィスを見て「ああ、すげえ。エネルギーあるな」とか。そういうことが、実はかなり重要ですね。会って話をすることで、これ行けるね、となったり、ならなかったりする。インタラクションの中で出てくるものって、プレゼンテーションのパワーポイントには、まず書いてありませんから。
山田:Ebatesは国内比率が90%、海外比率が10%なわけですよね。つまり、Ebatesも海外に弱い。
三木谷:10%の部分がものすごい勢いで伸びています。
山田:楽天とEbatesの課題はお互い、似ているわけですね。ロシアを伸ばしましょう、インドを伸ばしましょう、というところではかなり似ている。
三木谷:世界展開をする際には、両方のハイブリッドモデルでいける。その場合、マーチャントは自分で店をつくってEbatesから入ってもいいし、楽天のシステムを使ってショッピングモールの店舗を作ってもいい。どっちがいいですか?という話なんですね。コンバージョンレートがいいほうを選べばいいわけです。
山田:今、欠けている、もしくは増やしていきたいのはどんなパーツですか。
三木谷:たくさんあります。Slice technologies(8月に買収したデータ分析会社)は、この世の中、何が起こっているかということがデータによって分かってしまう。なんでGoogleが強いのかというと、世の中の動きがデータで分かっているということですよね。Google以外の会社が知らないことを知っている。でもSliceを買収したことによって、楽天も世界中で誰が何をどういう価格で買っているかというのを、ある程度は分かるようになるわけですよね。
山田:データにかなり凝っているわけですね。
三木谷:なんといってもデータです。kindleの本をタイの人がどれだけ買っているかという情報を分析できる。それがないと戦えないと思います。これは、もうインテリジェンス戦争だっていうことです。Sliceのスコット・ブラディCEOとはシリコンバレーで会って買収の話をまとめた。
山田:もちろん2人でビジョンを共有できたわけですよね。
三木谷:当然。見えている世界が一緒じゃないとダメだし。
山田:以前から疑問に思っていたんですが、楽天は、分散型の連邦経営ですか。それとも(中央集権型の)帝国経営ですか。
三木谷:いやいや(笑)。買収して全部のことを直轄でやってしまおうという発想は古い。マネージメントのスタイルに関して言うと、やっぱりある程度ダイバーシティ(多様性)を受け止めるようなことが、まず必要なわけです。そのことを前提として、どうやって一致団結的なチームワークを実現していくかが重要だと思っています。
三木谷:これからのインプリメンテーション(実装)で一番重要なことは本当にシナジーを出すということ。楽天がなぜ強いかといえば、楽天トラベルがあって、楽天市場があって、楽天カードがあって、楽天銀行があって、楽天証券があって・・・。みんな同じビルの中で同じ釜の飯を食ってやっているというところが強いわけです。
それをグローバルベースで、ほんとに実現できるかどうかというところが、僕の手腕の問われるところですよね。Googleはシリコンバレーに大きなキャンパスを作って、そこにほぼ、みんなを集めている。Facebookもそうです。つまり、同じ釜の飯、というスタイルでやっている。楽天もそれぞれがインディペンデントでバラバラにやるのではなく、一つにまとめたい。サービスについて統合するかどうかとは別の話で、シナジーのような形で、ある程度ロケーションを含めて集めていくということが重要だと思っています。今、ロケーションを世界的に統合していきたいと思っているんですよ。
山田:二子玉川に新設する本社は、そのためのものでもある、と。
三木谷:新本社では新しいワークスタイルを確立すると同時に、デイケアセンターを設置します。デイケアセンターについて僕が言っているのは、世界で一番いいデイケアセンターを作れ、と。ファシリティー的にではなくプログラム的に最高のもの、という意味です。楽天の社員の子供はバイリンガルに簡単になれるとか、そういうようなところも含めて、きちんと全体を設計したい。
だから僕はこれを本社ではなく、ハウスだと言っているんです。ワークライフバランスとよく言いますし、それは重要だと思いますが、それだけではなく、ワークがライフをサポートする時代に入っていくからです。
山田:切り分けるものではない、と。
三木谷:だって、人間にとって、ワークに使っている時間は非常に長いわけじゃないですか。だからこそ、ワークの中にライフをうまく調和させていくライフスタイルを新楽天タワーでは実現したい。これを僕らは「クリムゾンハウス」という名前に変えようと思っているんですけども。
山田:ハウス、つまり家なんですね。
三木谷:そうなんです。ハウスを実現したいと思っています。
山田:シリコンバレーの話に戻りますが、月に1週間ほどアメリカに駐在する時には1人ですか。それとも何人か向こうに送り込むイメージですか。
三木谷:すでにかなりいますよ。500~600人はもういるでしょう、アメリカの社員は。そのうち日本人は50~60人かな。
山田:50~60人で足りていますか。
三木谷:いやもっと増やします。シリコンバレーに日本のエンジニアをどんどん派遣する。と同時に、シリコンバレーからエンジニアをどんどん日本に連れてきます。ただ、細かいことは決まっていません。これは、漠然とした考えです。
山田:シリコンバレーはますます重要な拠点になっていくわけですね。
三木谷:Ebatesもあるので、サンフランシスコやシリコンバレーだけで4つの拠点があるんですよ。これも本来、統合しなければいけないと思っています。
山田:Viberのことも伺いますが、アカウントと楽天のIDを統合し、コミュニケーションをするたびに楽天のポイントが溜まる仕組みを作ります。
三木谷:会員の方どうしで、もっとつながってもらいたい。今、ルームというサービスも始めていますが、会員のあいだでつながってもらうということも、大きなバリューになってくると思うんですよね。あんまり多くのポイントではなく、おまけみたいな話ですが、メッセージを送るたびにポイントが貯まる、というのは嬉しいですよね。
ポイントが付いてくるということで、楽しみながらコミュニケーションをしてもらいたいな、と思うわけです。「あれ、ポイント貯まっちゃった」みたいなノリです。我々はそういうコミュニティを拡げて、会員により愛されるサービスを提供したい。そうすれば、巡り巡って、売り上げも伸びていきますから。
山田:楽天スーパーポイントを貯めているような人はガンガン、メッセージを送って、ポイントを貯めようとするでしょうね。コミュニケーション手段、ということであれば、貯まったポイントを友達にプレゼントすることはできますか。
三木谷:最初の段階ではまだできないと思いますね。
山田:できるようにはしたい?
三木谷:それはそうですね。すでに、楽天スーパーポイントをEdyに換えれるようにもしていますから。
ある意味、単純な楽天市場のポイントシステムから、さらに発展していく、ということです。今、Facebookの友達には楽天銀行のアプリで送金できるようになってますけど、Viberもそうなります。もちろん楽天のポイントが組む相手はViberだけではないんです。LINEでもどこでも組んでいく。LINEの森川亮君は、親しい友人です。
当然、グループ内にViberがあるわけですが、友だちでもあり敵でもある「フレネミー(フレンドとエネミーを組み合わせた言葉)」という関係が、これからは当たり前になります。楽天グループにとって、LINEはフレネミーです。ライバルであると同時に、重要なパートナーでもあるのです。